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  • 2016.04.03 Sunday
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2012年は新譜をたくさん聴きました。〜(2)〜

 

「ライフ・ウィズイン・ア・デイ」:スクワケット
僕はイエスというバンドには好きとか思い入れがあるとかいうのを通り越してもはや感謝さえしています(笑)。イエス自体のオリジナル・アルバムの素晴らしさは言うに及ばず(おととしリリースされた最新作「フライ・フロム・ヒア」もちょっと意表を突かれるくらい良かった)、メンバーのソロ作・関連作がどれも素晴らしくて次から次へと自分の趣味の世界が広がっていくのが楽しかった。ビル・ブラッフォードにはジャズ・ロックの凄さを教えてもらったし、リック・ウェイクマンやパトリック・モラーツからはシンフォニック・ロックの良さを教えてもらった。あまり世評の高くないスティーヴ・ハウの歌も個人的には大好きです(笑)。そんなメンバーそれぞれのソロ作の中で一番好きなアルバムはどれか?と訊かれたら、僕は迷わずクリス・スクワイアが'75年にリリースした1stソロ作「フィッシュ・アウト・オブ・ウォーター(未知への飛翔)」を挙げる。クリスはバンドの結成時から今日に至るまで幾度ものまさに『パーペチュアル・チェンジ』を繰り返してきたメンバーの中で、唯一不動のオリジナル・メンバーである。まさに彼こそがイエスなのである。そのクリスとこれまでもお互いのアルバムで何度か共演経験のあった元ジェネシスのスティーヴ・ハケットによる新ユニットがその名もスクワケット。「一緒に曲を書くようになって、スティーヴが実際かなり上手いシンガーだって気づいたのさ。僕たちの声はすごくうまくブレンドしてアルバムにはちょっとCSN&Yっぽいハーモニーも入ってるんだよ」というクリスのコメントを読んで、何となくイエスの最新作に収録されていた曲の中で最もポップな曲「The Man You Always Wanted Me To Be」のような感じを予想していたのだけれど、だいたい予想どおりの音でした。クリスがやっていた元イエスのビリー・シャーウッドとのユニット、コンスピラシーは正直いまいちピンと来なかったのだがこれはいいです。ハケットも近作のようなダークで重厚な感じと言うよりは「スペクトラル・モーニングス」〜「キュアード」の頃に戻ったようなポップで弾けた曲と演奏を聴かせてくれる。あとクリスの1stソロの名曲「Silently Falling」の続編というかアンサー・ソングっぽい曲もあったりしてニヤリ。確かに元イエスとジェネシスという2大プログレ・バンドのメンバーによるコラボ、と聞いてスリリングなテクニックの応酬のようなものを期待すると肩透かしを喰らうでしょうが、シンガーソングライターとしてのハケット=スクワイアの魅力を堪能できるアルバムです。


「ザ・リヴィング・トゥリー+イン・コンサート」アンダーソン/ウェイクマン
僕がプログレを聴くようになって、イエスにハマってリック・ウェイクマンというキーボード・プレイヤーについ親近感を抱いてしまったのは、彼が僕の長年聴き親しんできた数多くのミュージシャン(非プログレ系)のアルバムにスタジオ・セッション・プレイヤーとして参加していた、と知ったからだった。エルトン・ジョン、アル・スチュアート、T.レックスなど、ああ、あのアルバムで弾いていたのもウェイクマンだったのか、と驚かされたものだが、とりわけデヴィッド・ボウイのアルバムの中で個人的に最も好きな「ハンキー・ドリー」での印象的な演奏はウェイクマンのキャリアの中でも最高のものの一つ、と言っていいだろう。しかし何より僕にとって衝撃だったのは、あのキャット・スティーヴンスの名曲「Morning Has Broken」でピアノを弾いているのがウェイクマンだった、という事実である。確かに一度聴いたら決して忘れられない印象的なピアノのイントロダクションは、今改めて聴いてみると紛れもなくウェイクマンのものと思える。そのウェイクマンが久しぶりにジョン・アンダーソンとコラボレートしたアルバム「ザ・リヴィング・トゥリー」は実はおととし2011年のリリースだが、国内盤はその後にリリースされたライヴ盤との2枚組として去年リリースされたということでちょっと反則ですが(笑)。国内盤のライナーノーツでしか読めない2人へのインタビューが興味深い。


「フォーカス X」フォーカス
イエスにハマってからというもの、僕は勢い余ってロジャー・ディーンの画集を2冊購入してしまったくらいなのだが(笑)、オランダのプログレ・バンド、フォーカスの新作のジャケはそのロジャー・ディーンが手掛けている。以前書いたけど同郷のバンドとしてはアース&ファイアーが既にロジャー・ディーンにジャケをやってもらっているけど、フォーカスはこれが初めて、というのが意外なくらい。やはりヤン・アッカーマンはいないので、お、ロジャー・ディーンか、フォーカスか、というくらいの軽い気持ちでこのアルバムを聴いたプログレ・ファンはがっかりするかもしれないが、ヤン・アッカーマン不在のフォーカスの近作を「フォーカス 8」、「フォーカス 9」(今作タイトルの「フォーカス X」は「エックス」ではなくて「10」の意味)とちゃんと聴き続けてきた人にとっては、ただただタイス・ヴァン・レアの現役ぶりが嬉しい良作となっています。


「ジェラルドの汚れなき世界2」イアン・アンダーソン(ジェスロ・タル)
'72年に発表され爆発的ベストセラーを記録したジェスロ・タルのアルバム「ジェラルドの汚れなき世界」から40周年を迎えてリリースされた続編。40年前の前作では新聞の体裁を取っていたジャケが、続編となる今作では現代版ということでウェブのニュース・コンテンツ形式になっているのが面白い。続編とは言え、一応「(Jethro Tull's) Ian Anderson」とソロ名義でのリリースになっているのもミソで、内容的には近年のソロ作の延長線上にある。したがってこのアルバムも、おお、あの「ジェラルド〜」の続編か、という軽い気持ちで手を出して(笑)しまった人には地味に聴こえるかもしれないが、その後のジェスロ・タル〜イアン・アンダーソンをちゃんと聴き続けてきた人にとっては、いつもと変わらぬイアン・アンダーソン節に安心できる1枚。ジェスロ・タルというバンドがプログレ・バンドである以前にブリティッシュ・ロックの良心である、ということを教えてくれる。


「ブループリント」セバスチャン・ハーディー
フォーカスにハマってから僕は「シンフォニック・ロック」「泣きのギター」「メロトロン」というキーワード(というか「タグ」ですね)を頼りにして色々なミュージシャンを聴いたのだけれど、中でも良かったのがオーストラリアのセバスチャン・ハーディー。中心人物でありギタリストのマリオ・ミーロが奏でるカルロス・サンタナやアンディ・ラティマーばりの泣きのギターと、終始後ろで鳴っている穏やかなメロトロン、そして非常に親しみやすくて分かりやすいメロディ(プログレやシンフォニックというよりはもはやまっとうなハード・ロックかパワー・ポップと言ってもいい)。僕はすぐにハマってしまって'70年代にこのバンドがリリースしたたった2枚のアルバムと、その後に発表されたマリオ・ミーロのソロとその関連作(ウインドチェイス)を一通り聴いたのだが、どれも素晴らしい内容で、こんなにいいバンドが'70年代に欧米ではなくて「down under」に(笑)存在していた、というのが面白い発見でした。セバスチャン・ハーディー名義としては'76年の2nd「ウィンドチェイス」以来何と36年ぶり(!)のリリースとなるのが本作「ブループリント」。このアルバムも一聴しただけでは地味に聴こえるのだけれど、随所に過去の作品で聴き馴染んだフレーズが織り込まれていて、けれど決して単なる懐古趣味に陥っている訳ではなく彼らの今の音が鳴っている。過去に素晴らしい作品を残してきた偉大なミュージシャンが、今のこの時代に古くからのリスナーを納得させることのできる作品というのはこういうものなのだ、ということを思い知らせてくれる。このセバスチャン・ハーディーに限らず去年新作をリリースしてくれたミュージシャンたちの作品はみな例外なくこれに当てはまっているのだけれど、それがとにかく嬉しくて、ありがたい。

2012年は新譜をたくさん聴きました。〜(1)〜

僕の好きなミュージシャンというのは'60年代〜'80年代くらいに活躍していた古い人たちが多いので、普段好んで聴いているのは必然的に古いレコードばかりなのだけれど、去年はどういう訳か新譜をたくさん聴きました。一通り挙げてみると、ポール・マッカートニー、ジェフ・リン、ELO、グラハム・グールドマン、スクアケット(クリス・スクワイア&スティーヴ・ハケット)、アンダーソン/ウェイクマン、フォーカス、ジェスロ・タル、セバスチャン・ハーディー、ロバート・フリップ、ビーチ・ボーイズ、ブライアン・ウィルソン、アル・ジャーディン、ドリス・デイ、ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ、ドナルド・フェイゲン、ボビー・ウーマック、マーク・ノップラーといったあたり。しかし見事に古いミュージシャンばかりですね(笑)。と言うか、これだけの古くから活動しているミュージシャンがこぞって去年新譜をリリースしてくれた、と言うこと自体がもはや奇跡的だと思うのです。個人的には何と言うか、とても充実した幸せな1年でした。
「キス・オン・ザ・ボトム」:ポール・マッカートニー
トミー・リピューマ(!)をプロデュースに迎えて古いスタンダード・ソングをジャズ・アレンジでカヴァーという着想そのものは、ブライアン・ウィルソンが2010年にリリースしたジョージ・ガーシュウィンのカヴァー集「ブライアン・ウィルソン・リイマジンズ・ガーシュウィン」と同じであろう(こちらは奇遇にもリピューマの右腕とも言うべきエンジニアのアル・シュミットがミックスを担当。僕のようなビーチ・ボーイズ・マニアのみならず全てのポップス・ファンへの贈り物とも言うべき名盤です)。さすがは英米を代表するポップ・マエストロのお二人、発想も似てくるのでしょうか。リピューマ人脈でゲストにダイアナ・クラール(エルヴィス・コステロの現在の奥方)を迎えているのだけど、ポールはかつてコステロともお互いのアルバムに参加しあったことがあるので、これで夫婦と共演を果たしたことになる、っていうのは何か面白いですね。僕は名曲「ベイビーズ・リクエスト」('79年のウイングスのアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」に収録)のセルフ・カヴァーが入っているEU盤を購入したのだが、どうして国内盤からは削られているのだろうか?ジャズ・アレンジのカヴァー・アルバムにも親和性の高いオリジナルの楽曲だし、仕上がりもとてもいいのにもったいない。


「ロング・ウェイヴ」:ジェフ・リン
ソロ・アルバムとしては前作から何と22年ぶり(!)となるELOのジェフ・リンの新作も、古い曲のカヴァー集。22年も待たされてカヴァー集かよ、と(笑)ファンの間でも賛否両論あるようですが(先のポールのアルバムにしてもそうだけどこのテのいわゆる企画盤の宿命ですね)、その22年前の前作「アームチェア・シアター」でも古い歌のカヴァー自体は演っていた訳で(「セプテンバー・ソング」と「ストーミー・ウェザー」)、あのノスタルジックな雰囲気が好きだった僕には今回の新作もすんなりと受け入れることができた。オリジナル曲はないけど、どこを切ってもあのジェフ・リンの音が鳴っている。近年は自身の音楽活動よりはむしろ多くのミュージシャンのプロデュース・ワーク(ジョージ・ハリスンやトム・ペティなどトラヴェリング・ウィルベリーズ周辺や再結成ビートルズなど)で評価されてきたジェフ・リンの仕事を隅々まで堪能できる1枚。カヴァー集だけに選曲の妙がいろいろと興味深い訳だが(デル・シャノンやエヴァリー・ブラザーズはヒネっているのにロイ・オービソンが「ランニング・スケアード」とはまたベタやなあ(笑)、とか)、ちょっと面白いな、と思ったのはロジャース=ハマースタインの「もしも貴方を愛したら」で、この曲はジェフとともにELOを結成したロイ・ウッドがプロデュースしたアニー・ハズラム(ルネッサンス)の'79年のソロ作「不思議の国のアニー」でも採り上げられているのですよね。ELOの1stを最後に袂を分かつことになったとは言え、ロイとジェフのその後の音楽活動には何かと多くの共通点を見いだせるのだけれど、こういうところでもつながっているというのが何とも感慨深い。


「ミスター・ブルー・スカイ〜ヴェリー・ベスト・オブ・ELO」:ELO
先のジェフのソロ作と同時にリリースされたELO名義でのこのアルバムは「ヴェリー・ベスト・オヴ」と銘打ってはいるものの編集盤ではなく過去のヒット曲を完全新録したリ・レコーディング・アルバム。ただしリ・レコーディングとは知らずに普通のベスト盤と間違えて買ってしまった初心者の方がいたとしても、買い直す必要はないんじゃないか?(笑)ってくらいほとんどオリジナルとの間違い探しレベルの完コピになってます。何でもジェフは現在レコーディング中だという新アルバムを2013年中にはリリース予定とのことで、そのためにはこのような自身の音楽的ルーツの再確認作業と過去の作品の再演というウォーミングアップが必要だった、ということでしょう。


「Love & Work」:グラハム・グールドマン
2000年にひっそりとリリースされた元10ccのグラハム・グールドマンのソロ作「And Another Thing...」はとても暖かくて、優しくて、10ccのファンの人たちが10ccのファンをやっていて本当によかった、と感じることのできるいいアルバムだった。ちなみにこのアルバム・タイトルは、グールドマンがまだ10ccを結成する前の'60年代後半に職業作曲家としてヤードバーズ(「フォー・ユア・ラヴ」「ハートせつなく」)やホリーズ(「バス・ストップ」)、ハーマンズ・ハーミッツ(「ノー・ミルク・トゥデイ」)らに楽曲を提供していた頃にリリースされた1stソロ作のタイトルが「The Graham Gouldman Thing」だったので、その32年後(!)にリリースされた2ndが「And Another Thing...」という訳です。しゃれてますね。裏ジャケは1stのジャケと同じ構図で撮影されていてまたニヤリ。その前作を気に入った人なら、今回の新作にも必ず感動するでしょう。このアルバムは10ccとしての活動停止後の80年代後半にWAXというユニットで活動を共にした故アンドリュー・ゴールド(2011年に急逝)に捧げられているのだけれど、その音楽性は'80年代という時代を感じさせるWAXのものとは違い、WAXでの活動後期で聴かれたようなアコースティックでシンガーソングライター然とした音の延長線上にある。ひとつ面白いと思うのは、クレジットにこのアルバムの制作に使用された全てのギターのモデルの名称が列記されているのだけれど、11曲目「Black Gold」はまんまシャドウズのような「エレキ」ギター・インストである。僕の好きなミュージシャンだとマーク・ノップラーやマイク・オールドフィールド、セバスチャン・ハーディーのマリオ・ミーロといったギタリストがハンク・マーヴィンへのリスペクトを表明しているのだけれど、グールドマンがこういう音楽への嗜好性を持っているとは知らなかった。プロコル・ハルムのマシュー・フィッシャーがソロ作でハンク・マーヴィンへのトリビュートを演っていたのにも驚いたものだが、イギリスのミュージシャンにとってシャドウズというバンドは別格ともいうべきルーツなのでしょうか。

「SUPER VIEW」キリンジ

 
1曲目の「早春」。この曲がこのアルバムの全てだと言い切ってしまおう。来春にリリースされる予定の次作を最後に弟のヤスの脱退が決定しているキリンジの、スタジオ9枚目となる最新作「SUPER VIEW」はあまりにも感動的な曲で幕を開ける。

前にも書いたけれど僕はいわゆる情報弱者なので(笑)、「どうやら今回のアルバムには久しぶりに冨田恵一が1曲だけアレンジで参加しているらしい」という事前情報のみで聴き始めたのだけれど、もう1曲目からこれでしょう、っていう。クレジット確認するまでもなく分かります(笑)。冨田ラボ流ウォール・オブ・サウンド。いかにも冨田らしい分厚い音の壁が押し寄せる。

これも前に書いたと思うけど、僕にとってのキリンジはメジャー・デビュー作となる1st「ペイパー・ドライヴァーズ・ミュージック」の衝撃が全てで、「(トミー・)リピューマ・マジック」ならぬ「冨田マジック」によって『treatment』されたこの魔法の1stアルバムからキリンジが冨田と『袂を分かつ』までの5th「For Beautiful Human Life」までが愛聴盤であった。6th「DODECAGON」以降のアルバムが、自分にとっては残念ながら愛聴盤とまではならなかったのは、単純な好みの問題であって、冨田恵一の不在やピコピコした音楽性(エレクトロニカのような音楽は決して嫌いではないのだがキリンジの音楽性にはそぐわないように感じる)のせいだけではないと思っていた。また「DODECAGON」以降のアルバムには「恋の祭典」、「エイリアンズ」、「Drifter」のようないわゆる「キラー・チューン」がないんだよな(1st「PDM」は全曲がキラー・チューンです(笑))、と思っていたのだけれど、この最新作ではいきなり頭からキラー・チューン炸裂。つかみはOK、しかし後は尻すぼみなのか、というとそんなことはまるでなくて、2曲目「TREKKING SONG」も冨田は関わらずともしっかりキリンジ流ウォール・オブ・サウンドを聴かせてくれる。前作「BUOYANCY」の「夏の光」での試みを完成させたと言ってもいい佳曲。そしていかにも弟らしいC&W風の3曲目「荊にくちづけを」でホッとさせる。この辺りの流れも素晴らしい。兄・高樹がヴォーカリストとしての新境地を聴かせる70年代『スウィートソウル』風の5曲目「いつも可愛い」、ギルバート・オサリヴァンの「アローン・アゲイン」を思い起こさせる弟・ヤスの6曲目「今日の歌」。震災、原発をテーマにした7曲目「祈れ呪うな」で歌われるメッセージについては、聴き手が個人としてそれぞれに考えればいいのだと思います。素朴なティン・ホィッスルの音色が郷愁をさそう8曲目「バターのように」は和風ケルトとでも言うべきか。

僕はもうキリンジというバンドのあまりいい聴き手ではないのかもしれないけれど、こうしてふたたび素晴らしい作品を届けてくれたことが何より嬉しい。確かに弟の脱退は残念な知らせではあるのだけれど、個人的にはもうそろそろ名盤「Home Ground」以来となる久しぶりの兄・高樹のソロ作を聴きたいと思ってもいたので、何とも複雑な心境ではある。何はともあれ「兄弟」の縁は切っても切れない訳だし(笑)、今後の2人の活動を暖かく見守っていきたいと思うのです。



「アフターマス」ザ・ローリング・ストーンズ

 

久しぶりにストーンズの66年作「アフターマス」を聴いてみて思ったのは、「ストーンズってこんなにポップだったっけ?」ということだった。ザ・フーの「アンダー・マイ・サム」のカヴァーをきっかけにストーンズの60年代のアルバム(いわゆるデッカ/ロンドン時代)を一通り聴き直してみて改めて感じたのだけれど、僕にとってのストーンズっていうのはソングライター・コンビとしての「ジャガー=リチャーズ」の魅力なんである。レノン=マッカートニーがいわゆるブリル・ビルディングのソングライター・コンビたち(バカラック=デヴィッド、マン=ウェイル、ゴフィン=キング、バリー=グリニッチなど)と並び称されるべきポピュラー音楽の偉大な作曲家であることは衆目の一致するところだと思うが、このジャガー=リチャーズも同じように語られるべきだろう。

70年代に入ってアメリカのスワンプやサザン・ロックへの近接とともにストーンズは楽曲の良さを前面に押し出す、というよりは独特な演奏の「間」とグルーヴで聴かせるロック・バンドへと変貌していく訳だけれど、この世間一般認識で黄金期とされるいわゆる「70年代型ストーンズ」というのが僕にはどうもピンと来ないんですねえ。アルバムで言うと「ベガーズ・バンケット」以降ということになるけれど。以前山下達郎がビートルズについて「僕にとってのビートルズは初期の頃がすべて。『サージェント・ペパーズ』以降何がいいのかサッパリ分からなくなった」というようなことを語っていたけれど、自分にとってはまさにストーンズがそんな感じですねえ。60年代ストーンズのポップさというのは、もちろんプロデューサーのアンドリュー・ルーグ・オールダムのフィル・スペクター風味の味付けというのも大きいとは思うのだけど。

で、そんな訳で60年代ストーンズをおさらいしているときにちょうどタイミングよく雑誌「レコード・コレクターズ」誌で「ローリング・ストーンズ ベスト・ソングス100」なる企画をやっていたので早速購入して読んでみたのだが、何でなんだよ。何で僕の大好きな「The Singer Not The Song」が100位以内に入ってないんだよ(笑)。で、総合ランキングの元になった音楽ライター25人の個人ランキング・リストを眺めていたら一人だけ「The Singer Not The Song」を挙げていた人がいた。萩原健太サン(笑)。自分がこの曲を初めて聴いたのは実はアレックス・チルトンのカヴァー・ヴァージョンなんだが、そういえばチルトンのアルバムの国内盤の解説を書いていたのも健太サンだったっけ。健太サンも言い訳がましく(笑)書いておられる。「好きな曲は古いのばかり。現役バンドの聴き手としては(ストーンズの)あまりいい聴き手ではないと思います」と。自分も以前ニッキー・ホプキンス絡みで「ゼア・サタニック・マジェスティーズ」について書いた時に「ストーンズについては門外漢」と書いたけれど、70年代以降のストーンズが鬼門である、ということにはやはり後ろめたさを感じずにはいられないのです。

「フーズ・ネクスト」ザ・フー

 
ザ・フーの一連のアルバムを買い直すのにあたっていくつかの通販サイトを調べていたら、ちょうどディスク・ユニオンに「トミー」「フーズ・ネクスト」「セル・アウト」「ライヴ・アット・リーズ」のそれぞれデラックス・エディションSHM-CD紙ジャケ4タイトルまとめ買いセット:特典収納ボックス付き、なるものがあったので、迷わずポチりました。1セット税込16,800円也は少々値が張りますが、ブリティッシュ・ロックを代表するバンドの全盛期のアルバムが、ヴォリュームたっぷりのボーナス・ディスクや読み応えのある詳細なブックレット、思わずワクワクしてしまう紙ジャケ、デフジャケのオマケも付いてこの値段なら高いとは思わない。

今回改めてザ・フーの一連のアルバムを聴き直して驚いてしまったのは、この71年リリースの名盤「フーズ・ネクスト」が実は「トミー」に続いて制作される予定だったがオクラ入りになってしまったコンセプト・アルバム「ライフハウス」のためのマテリアルの一部であった、ということである。もちろんただ単に僕が不勉強なだけなんだが(笑)、少なくとも僕が20年以上前に購入した「フーズ・ネクスト」のCDのライナーノーツにはそんなことは一切書いてなかった。このアルバムに収録されている「The Song Is Over」という曲はこの曲でピアノを弾いているニッキー・ホプキンスについて書いたときに触れたけれど、僕はこの曲のコーダの部分が好きだった。そのコーダの部分というのが実は元々「Pure And Easy」という別の曲だった、ということも今回初めて知った次第である(その「Pure And Easy」ももちろんこのデラックス・エディションにボーナス・トラックとして収録されているし、オフィシャル・リリースとしては編集盤「オッズ&ソッズ」やピートのソロ作に収録されている)。いやはや楽しいですねえ。オフィシャルとしてリリースされた名盤には実はオクラ入りになった未発表のマテリアルがたくさん存在していた、っていう。それはあたかもビーチボーイズ・マニアの我々が「スマイル」を通して経験した奇跡にも似ていて。

今回ザ・フーを聴き直すにあたっていろいろな関連サイトを見て回った際にマニアックかつコレクター気質なサイトが多いなあ、と感じたのだけれど、こういう「裏事情」を知るとそりゃコレクター魂に火が付くよなあ、というのも分かる気がする。しかし今でこそこうしてアルバムを買えば自動的にボーナストラックとして未発表曲が付いてくる、という幸せな時代なのだけれど、その昔に我々の先輩たちはこの考古学調査とも言うべき遺跡発掘に相当苦労なさったのでしょうね。ご苦労お察しします。

ザ・フーを改めて聴いていて圧倒されるのはやはりその演奏の凄まじさである。キース・ムーンの手数の多い暴れまわるドラム、ジョン・エントウィッスルのメロディを奏でるベース、その後に登場する多くのハード・ロック・バンドの雛形になったロジャー・ダルトリーのヴォーカル、ギタリストとしての演奏自体は地味でもジミ・ヘンドリックスに対抗意識があったというピート・タウンゼントの破壊パフォーマンス。記録映画「キッズ・アー・オールライト」でピートがビートルズについてコメントを求められて「曲は悪くないと思うけど演奏を聴くとガキっぽい、と感じる」と語っているのは自分たちの自信とプライドから来る本心であろうし、ストーンズの伝説のTVショー「ロックン・ロール・サーカス」で演奏するザ・フーを見てブライアン・ジョーンズが自信を喪失してしまった、という逸話もまた真実なのだろう。

で、今回ザ・フーを聴き直すにあたってオリジナル・アルバムには未収録のシングル曲もどうしてもコンプリートしたくなったので、「ザ・シングルズ+10」という2枚組ベスト盤(こちらも2枚のイカした紙ジャケにそれぞれのディスクが収納されている)を購入した。そこにはローリング・ストーンズのカヴァー「The Last Time」が収録されていた。何でも67年にストーンズがドラッグの不法所持で逮捕されてしまったことを受けて支援のために急遽録音・リリースされたという。いい話ですねえ。そのカップリング曲が同じくストーンズの「Under My Thumb」のカヴァーで、こちらは先述の編集盤「オッズ&ソッズ」で聴くことができるのだけれど、やはりオリジナル・ヴァージョンと聴き比べてみようか、と思い、この曲が収録されているストーンズのアルバム「アフターマス」(これも20年以上前に購入したものだ(笑))を引っ張り出して聴いてみた。で、またしても僕はストーンズという偉大なバンドのいったい何を聴いてきたのか、そして何を聴いてこなかったのか、という大変重大かつ深刻な問題に直面することになってしまった訳です(笑)。これについてはまた次回。


「ブリーズ・アウト、ブリーズ・イン」ザ・ゾンビーズ


元ゾンビーズのロッド・アージェントとコリン・ブランストーンのリユニオンによるスタジオ・アルバムとしては01年の「Out Of The Shadows」(この時はゾンビーズ名義ではなかったけど)、04年の「As Far As I Can See」に続く3枚目となる11年リリースの「ブリーズ・アウト、ブリーズ・イン」。前2作は僕のようなゾンビーズ・マニアにとってはこの二人がとにかく戻ってきてくれてコラボレートしてくれただけで満足、というもので、客観的にアルバムとしての評価を考えると、かつて時代を代表するマスターピース(ゾンビーズで言えば68年の「オデッセイ&オラクル」)を残したロックの巨人が、今の時代に新たなファンを獲得できるような内容であったかというと、残念ながらそういう性質のものではなかったと言わざるを得ない(もちろんこれはゾンビーズに限ったことではないのだけれど)。あくまで我々のような熱狂的なゾンビーズ・マニアが、まだまだ彼らが現役で頑張っていることを確認するためのアルバム、という見方が妥当だろうと思う。しかしながら昨年リリースされたリユニオン3作目となるこのアルバムは素晴らしい。何よりも曲がいい。どの曲もクオリティが高く粒揃いで駄曲がない。前2作同様それぞれのソロ作から持ち寄ったマテリアルの再録もいくつかあるのだが、その選曲もいい。特に4.「Shine On Sunshine」はアージェントのアルバム「サーカス」に収録されていた紛うことなきポール・マッカートニー節の涙ちょちょ切れる名曲。個人的にはロッドのちょっと鼻にかかった高い声が好きなので(トッド・ラングレンに似てなくもない)、原曲どおりロッドのヴォーカルで再録してほしかったところだけどコリンの未だ衰えぬ「スモーキー・ヴォイス」による新録ヴァージョンももちろん素晴らしい。アルバムのラストを締めくくる10「Let It Go」の間奏で聴こえてくるオルガンなどはまさしくプロコル・ハルム。僕がロッド・アージェントというキーボード・プレイヤーに惹かれてしまうのは、マシュー・フィッシャーやニッキー・ホプキンスが好きだからかもしれない。

で、このアルバムがあまりに素晴らしかったので、また改めてゾンビーズやロッド・アージェントのソロ作を聴き直すことになり、そこからまた沢山の素晴らしいミュージシャンとそのアルバムに巡り会うことになった訳です。例えばアージェントの後期の作品は時代を反映してフュージョン、ジャズ・ロック寄りの音になっているのだけど、こういうのもいいなあ、と思いながらそのテのアルバムというのは僕はほとんど持っていなくて(笑)、たしかこの辺が近い感じじゃなかったっけ?とかろうじて思い出したのがビル・ブラッフォードの1stソロ作「フィールズ・グッド・トゥ・ミー」だった。ちょうどイエスにハマっていた頃に「一通りメンバーのソロ作も聴いておかなきゃ」と思って購入したもののいまいちピンと来なくて(笑)、数回聴いただけでレコード棚に眠っていたものである。改めて聴き直したそのアルバムの素晴らしさときたら・・。いつも書くことだが不思議なものである。棚の奥に眠っていたアルバムがふとしたきっかけである日突然自分にとって重要な意味を持ち始めるのだから。

で、そこからビル・ブラッフォードにハマってソロ作や関連作を聴き漁ったのだけれど、ソロ2作目となる名盤「ワン・オブ・ア・カインド」のクレジットに何とロッド・アージェントのキーボード・ショップへの謝辞があって驚いてしまった。ブラッフォードの右腕とも言うべきバンドのキーボード・プレイヤー、デイヴ・スチュワート(元エッグ、ハットフィールド&ザ・ノース)と後に「スチュワート&ガスキン」というユニットを組むことになるバーバラ・ガスキンによると、当時ブラッフォードとガスキンはできたばかりのアージェントの店へよく通っていたという。全く関連性がないと思っていた二人のミュージシャン(アージェントとブラッフォード)が実はつながっていた、というのがまた面白い。

またアージェントの関連作のライナーノーツを読んでいたら、アージェントは何とあのアンドリュー・ロイド・ウェーバーの有名なミュージカル「オペラ座の怪人」や「キャッツ」でキーボードをプレイしていた、とある。まるで知らなかった。何でもウェーバーがアージェントのソロ・アルバムを気に入って自身のアルバム「ヴァリエイションズ」(これにはジョン・ハイズマンやゲイリー・ムーア他コロシアム兇離瓮鵐弌爾盪臆叩L照廚任后砲寮作に招いたのがきっかけだという。ここからまた僕はアンドリュー・ロイド・ウェーバーにハマってしまって「ジーザス・クライスト・スーパースター」や「エビータ」など一連の作品を聴いたのだが、まさか自分がミュージカルのアルバムを聴き漁ることになるとは夢にも思わなかった(笑)。

そしてアージェントがゲストとして参加したアルバムにザ・フーの'78年作「フー・アー・ユー」がある。もちろん僕はロックの義務教育課程として(笑)、ザ・フーの60年代後半から70年代前半にかけての代表的なアルバムは全て若い頃に聴いていたのだけれど、この「フー・アー・ユー」はまだ聴いたことがなかったので、アージェントをきっかけに改めて聴いてみることにしたのである。実際に聴いてみたそのアルバムは、もちろん全盛期の諸作に比べると輝きに欠けるものかもしれないけれど、決して悪くないアルバムだった。そこでザ・フーも今一度聴き直してみよう、と思ったのだが、僕の所有しているCD(すべて20年以上前に購入したもの(笑))はみな音が悪い。で、調べてみるとザ・フーもオリジナル・アルバムの多くがリマスター&多くのボーナス・トラック付きデラックス・エディションでリリースされている。そういう訳でザ・フーの諸作を一通り大人買いして(笑)、聴き直すことにした訳です。これについてはまた次回。



We can be Heroes just for one day

 

終わっちゃいましたね、オリンピック。と4年前と全く同じ書き出し()ではじめてみましたが(笑)。今回は開催地がロンドンということでブリティッシュ・ロック好きとしては特に開会式・閉会式に期待していたのですが、期待に違わぬ素晴らしいものでした。特にここ最近は奇妙なセーレンディップの導きによりデヴィッド・ボウイばかり聴いていたので、開会式のイギリス選手団入場の際に"Heroes"が流れてきたときは「こう来たか」という驚きと感動がありました(てっきりクイーンだとばかり思っていたので)。

まず開会式については僕はいわゆる情報弱者で(笑)、「どうやらポール・マッカートニーが『ヘイ・ジュード』を歌うらしい」というくらいの事前情報しか知らなかったので、むしろ新鮮な驚きと感動を持って見ることができた。まずオープニングの映像でチラッとピンク・フロイドの「アニマルズ」の豚が飛んでいるのを確認してニヤリとしたのも束の間、エマーソン・レイク&パーマーでお馴染み(笑)の「エルサレム」でガツンと来て、たたみかけるように「ダニーボーイ」が流れる(ビートルズの「ワン・アフター・909」の最後でジョン・レノンが口ずさんでいた「ダニーボーイ」。村上春樹の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」で重要な役割を果たす「ダニーボーイ」。最近ではケルティック・ウーマンがカヴァーした「ユー・レイズ・ミー・アップ」というコーラス曲として有名になった「ダニーボーイ」)。すると「チューブラー・ベルズ」のイントロが聴こえてきて、まさかの生マイク・オールドフィールドが。「エジンバラ・キャッスル」や「アート・イン・ヘヴン」のライヴDVDで見たのと変わらぬ元気そうなお姿で。いやあ、早起きした甲斐がありました。ミスター・ビーンの「炎のランナー」もさもありなん、という選曲でしたが、作曲者のヴァンゲリスがオリンピック発祥の地であるギリシャ人だというのも何かの縁でしょうか。そしてクライマックスの花火が打ちあがる感動的なシーンでピンク・フロイドの「狂気」のラストに収録されている「Eclipse」が流れる。この曲の公式プロモ・ヴィデオ・クリップにしてもいいんじゃないかと思うくらいいい映像でした。

それに比べると閉会式の方はレイ・デイヴィスが登場して名曲「ウォータールー・サンセット」を歌うところで「おっ」となったものの、ピンク・フロイドの「あなたがここにいてほしい」もニック・メイスンだけで、マイク・ラザフォードの客演はありがたかったけどよく知らないシンガー(失礼)の歌で「炎」とはいかずに不完全燃焼。「閉会式は開会式に比べたらイマイチだったな」と思っていたところにザ・フーですよ。ストーンズやゼップを待っていた方も多いでしょうがやっぱりザ・フー。これが正解。

デヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」については今回のオリンピックでクイーンの「We Are The Champions」みたいな使われ方をしたことについて、熱狂的なボウイ・ファンの間では否定的な意見もあるのだろうし(歌詞の内容は字義通りの英雄讃歌ではないんだよ、みたいな)、この曲のタイトル・クレジットが"Heroes"とクォーテーション・マーク付きになっていることの意味についても考えなきゃならないのだろうけど、そういうことは今回のオリンピックでボウイに興味を持ってくれた人たちがこれからゆっくりと考えていってくれればいい訳で。我々ボウイ・ファンとしては今回のオリンピックでこのボウイの名曲が広く世に知られることになったのをまず素直に喜びましょう。

冒頭に「最近デヴィッド・ボウイばかり聴いていた」と書いたけど、最近はほとんどブリティッシュ・ロックばかり聴いていて(まさかこの歳になってビートルズやストーンズを改めて聴き直すことになるとは思いもしなかった(笑))、何でこういうことになったのかな?と記憶を辿っていくと行き着いたのが昨年リリースされたゾンビーズのニュー・アルバム「ブリーズ・アウト、ブリーズ・イン」だった。次回はそのアルバムについて。

「Atlantis」アース&ファイアー

 

オランダのミュージシャンのヒット・ソングというと僕なんかはもう反射的に、と言うか、何とかの一つ覚えみたいに(笑)ショッキング・ブルーの「ヴィーナス」を思い浮かべるのだけれど、このアース&ファイアーもショッキング・ブルーと同じ女性がリード・ヴォーカルのオランダのバンドである。このバンドのCDも集めるのに大変手こずりました。どの通販サイトで検索してもよく似た名前のアース、ウインド&ファイアーが沢山引っ掛かってきちゃうし(笑)。

前回紹介したカヤック同様、その音楽性はプログレ、シンフォニック・ロックということになるのだろうけど、実際1stのジャケなんかはかのロジャー・ディーンだったりもする(こちら↓)

ただこの1stの段階ではまだごくありふれたサイケ・ポップという趣でプログレ色は希薄。バンドが本格的にプログレ方面へと舵を切るきっかけとなったのは、たまたまスタジオにあったメロトロンを演奏に取り入れてレコーディングされたという'71年リリースの2nd「アムステルダムの少年兵」である。カヤックのような憂いを帯びた美しいメロディとフォーカスのような泣きのギター、アルバムB面全体を使ったかなりしっかりとした構成の組曲形式の楽曲などは同時代のイギリスのプログレ・バンドたちにも決して引けを取らない。なぜプログレを演るようになったのか?という問いに対する答えが「そこにメロトロンがあったから」という哲学的ともいえる(笑)エピソードは面白いですね。

その充実した内容の2ndを踏襲するかたちで制作された続く3rdアルバム「アトランティス」こそ、このバンドの最高傑作と言っていいだろう。アルバム全体を貫くコンセプトがアトランティス大陸の伝説をテーマにした組曲構成というのも実にプログレ的である(そう言えばカヤックはアーサー王の伝説をテーマにしたコンセプト・アルバム「マーリン」をリリースしていたりもするが、プログレ・ファンなら誰しもが思い浮かべるのはリック・ウェイクマンの「アーサー王と円卓の騎士たち」ですね)。

しかしこのバンドも60年代後半から70年代前半にデビューした多くのプログレ・バンドの宿命として、とでも言うべきか(笑)時代の流れに翻弄され、続く'75年リリースの4thアルバム「To The World Of The Future」からはディスコやソウル、ファンク、R&Bのテイストを取り入れた(まさによく似た名前の別バンド、アース、ウインド&ファイアーのような)音楽性へと変貌していく。特にアルバム・タイトル曲なんかはシックの「おしゃれフリーク」か、と聴き紛うような曲である。しかし基本は歌メロがポップでしっかりしているバンドなのでディスコ・サウンドとも馴染みやすい。ただそれでもプログレ期の名残なのかメロトロンだけは終始後ろで鳴り響いていて、「ディスコ・サウンドとプログレの融合」という一種独特のキッチュでモンドな音世界は、これはこれで悪くない(笑)。

リード・ヴォーカルのジャーネイ・カーグマン嬢の歌唱スタイルを聴いていると、先述したショッキング・ブルー同様にジェファーソン・エアプレインのグレイス・スリックからの影響は明らかなのだけれど、僕はむしろ「アトランティス」に収録の名曲「Maybe Tomorrow,Maybe Tonight」を聴いて、アメリカのソフト・ロック・グループ、スパンキー&アワ・ギャングの「Sunday Will Never Be The Same」を思い出してしまった。あとママス&パパスとか。このバンドも一般的な認識としては「オランダのプログレ・バンド」ということになるのかもしれないけれど、とにかく歌メロが親しみやすく美しいので、ポップス好きの人にこそ聴いてもらいたいバンドである。

それにしてもこのアース&ファイアーにしても以前書いたカヤックやソリューションにしてもそうなのだけど、オランダのミュージシャンの書くメロディというのはもう「親しみやすい」のを通り越して「人なつっこい」くらいで、今ではプログレも聴いているけど根がポップス好きの僕には何ともたまらない。

「See See The Sun」「Kayak」カヤック

 

前々回の記事に書いたオランダのカヤックの’73年の1stアルバム「See See The Sun」。日本で発売された当時の邦題はその名も「金環食」。裏ジャケは↓


日食グラスで見てます、太陽(笑)。つい先日巷でよく見られた光景ですね。フォーカスやソリューションを聴いてオランダの音楽シーンに興味を抱いたので、いろいろ調べてカヤックというバンドの存在を知って聴いてみた。で、ハマった(笑)。リリースされたほぼ全てのアルバムを揃えました。こちらもCDすらほとんどが廃盤で大変な思いをしたけど(笑)。でも楽しかった。

いちおうプログレ・バンドということになっていて、僕もそのつもりで聴いたのだけれど、この1stで聴かれるクラシカル(というかシンフォニック、でしたね。覚えました(笑))で美しいメロディとイエスを思わせるコーラス、メロトロンも聴こえる長尺のインストなんか聴くと確かにプログレ的ではある。しかし基本はキャッチーで親しみやすいポップな楽曲が中心で、例えば1曲目の「Reason For It All」のドラマティックなイントロを聴くと後に「3分間プログレ」と言われたエイジアあたりを想起せずにはいられない。


この2ndアルバム「Kayak」もジャケからしてヒプノシスか?と思わせるプログレ感バリバリなのだが、楽曲の方は一貫してコンパクトでポップでキャッチー。以前紹介したケストレル同様、プログレ・ファンより10ccやELOといったビートルズ直系のブリティッシュ・ポップ好きの人にこそ聴かせたい。特に2曲目「Wintertime」はママス&パパスの「カリフォルニア・ドリーミン」、サイモン&ガーファンクルの「冬の散歩道」、トレイドウインズの「ニューヨークス・ア・ロンリー・タウン」と並ぶポップ史に残る冬の名曲である。

バンドのメイン・コンポーザーはクラシカルでシンプルで美しいメロディを書くTon Scherpenzeelとややヒネりの利いた陰のある楽曲を得意とするPim Koopmanの2人。ビートルズで言えばポール・マッカートニーとジョン・レノン、10ccで言えばスチュアート&グールドマンとゴドレイ&クレーム、スーパートランプで言えばロジャー・ホジソンとリック・デイヴィス。ポップ・ロック・バンドにおける絶妙のバランスですね。70年代後半にはPimがバンドを脱退し、Tonによるさらにドラマティックな歌モノ中心(まさに先述したエイジアのような売れ線プログレ・ポップ)へと音楽性がシフトしていく訳だけれど、この頃にはイギリスのジャズ・ロック系重要人物ジャック・ランカスター(ブランドX関連。彼のソロ作Skinningrove Bayは愛聴盤です)なんかがアルバムをプロデュースしていたりして面白い。Tonは80年代にはイギリスのプログレ・バンド、キャメルのアンディ・ラティマーに請われてメンバーに加入しキーボード・プレイヤーとして重要な役割を果たすことになる。もう一人のPimの方は母国オランダ出身の男性シンガーで90年代初めに日本でもヒットしたヴァレンシア(懐かしいですね)のプロデュースを務めたりしているのだが、Pimがカヤック脱退後に結成したバンド、ディーゼルのヒット曲を聴いて驚いてしまった。それがこれ↓


これまた懐かしいですね。鹿取洋子の「ゴーイング・バック・トゥ・チャイナ」の原曲はこの人の書いた曲だったんですねえ。しかし楽しいなあ。元をたどればプログレつながりからケストレルのポップの名盤に巡り会って、そこからフォーカスを知ってオランダのミュージック・シーンに関心を持ち、ついには時空をも超えて(笑)日本の歌謡曲にまでたどり着いちゃった訳だから。これだから音楽を巡る旅はやめられない。

誰かが私からすべてを奪い去ったとしても/誰も私の尊厳を奪えやしない


3つ前のこの記事()に書いたホイットニー・ヒューストンの86年の全米No.1ヒット曲「グレイテスト・ラヴ・オブ・オール」の詞を書いたのはリンダ・クリードでした。以前この記事()で「リンダ・クリードという作詞家についてもいつか機会があれば書きたい」と書きましたが、まさかこういう形で書くことになるとは思いませんでした。

フィリー・ソウルの偉大な作曲家トム・ベルとのソングライター・コンビ(ベル=クリード)としてスタイリスティックスの「誓い」や「ユー・アー・エヴリシング」など多くのヒット曲を手がけていたリンダは、77年にモハメッド・アリの自伝映画「アリ・ザ・グレイテスト」のために「グレイテスト・ラヴ・オブ・オール」の詞を書き下ろしました(この時のオリジナルはジョージ・ベンソンの歌でヒット)が、実はこの時彼女は乳がんを発症していました。その後86年に当時まだ新人シンガーだったホイットニー・ヒューストンによってカヴァーされたこの曲は全米No.1ヒットとなる訳ですが、リンダはその数週間前にがんの再発のために36歳の若さで亡くなりました。ホイットニーの曲がNo.1になるのを見届けることはできませんでした。

詞の内容は死を覚悟したリンダが遺される夫や子供たちに宛てた手紙のようにも思えます。

 「未来は子供たちのためのもの/私はそう信じている/子供たちによく教えてあげましょう/未来を切り開いて行けるように/誰にだってみんないいところがあるんだ、って教えてあげましょう/誇りを持たせてあげればいいだけのこと/子供たちの笑い声が/昔の私たちのことを思い出させてくれるでしょう/

誰もがヒーローを探しているわ/人には尊敬できる誰かが必要/でも結局私の期待に応えてくれる人なんて見つからなかった/寂しいことではあるけれど/私は自分ひとりの力で生きて行くことを学んだの/

ずっと昔に私は決めたの/誰かの影に隠れて歩くのはやめよう、って/私が失敗しようと成功しようと/少なくとも私は思いのままに生きていくわ/誰かが私からすべてを奪い去ったとしても/誰も私の尊厳を奪えやしない/

何よりも素晴らしい愛が私の中に生まれたから/何よりも素晴らしい愛を自分の中に見つけたから/それを手に入れるのは簡単なこと/自分自身を愛せるようになること/それが何よりも素晴らしい愛なのよ/

もし万が一あなたが夢見ていた場所が/辿り着いてみたら寂しい場所だったとしても/きっと愛があなたの支えとなるでしょう」〜The Greatest Love Of All(拙訳:豊満ランドオー)


晩年のホイットニーがこの歌を歌うとき、その歌詞は彼女の胸にどのように響いたのでしょうか?

ご冥福をお祈りします。

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